東京地方裁判所 平成4年(ワ)14742号 判決 1994年8月30日
主文
一 被告らは、各自原告甲野一郎に対し、金三二六一万〇六四三円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自原告甲野二郎に対し、金三一四一万〇六四三円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
理由
第一 原告らの請求
一 被告らは、原告甲野一郎に対し、連帯して金七一一〇万四〇二九円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告甲野二郎に対し、連帯して金六九一〇万四〇二九円及びこれに対する平成三年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、青信号に従つて横断歩道を歩いていて、右折してきた貨物自動車に轢かれて死亡した者の子供らが、運転者に対しては民法七〇九条に基づき、所有者で運転車の使用者であつた者に対しては自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等
1 事故の発生
甲野花子(以下「花子」という。)は次の交通事故により死亡した(以下「本件事故」という。)。
日時 平成三年八月一三日午後七時二〇分ころ
場所 東京都千代田区麹町一丁目三番地先交差点(以下「事故現場交差点」という。)
加害車両 小型特殊事業用現金輸送車(品川八八え一六七四号)(以下「被告車」という。)
運転者 被告川上久(以下「被告川上」という。)
事故態様 被告川上は、被告車を運転し、麹町警察署西側脇の裏通りを南進し、事故現場前交差点を直進予定で進行したが、交差点内において急に進路を変更し、右折して横断歩道に侵入したため、折から同交差点の横断歩道を青信号に従い、南から北に対向して横断歩行中の花子に被告車右前部を衝突させ、急性硬膜下血腫、脳挫傷の傷害を負わせ、花子は東京女子医科大学病院脳神経センターにおいて治療を受けたが、頭蓋内損傷を直接死因として同年八月一五日死亡した。
2 被告らの責任原因
被告川上は、被告車を運転し、交差点を右折する際、道路を横断する歩行者に特に注意し、できるだけ安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務がるにもかかわらず、これを怠り漫然と右折した過失があるので、民法七〇九条の責任があり、被告日本通運株式会社(以下「被告日通」という。)は、被告車を保有し自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法三条の責任がある。
3 原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)は、花子の長男、原告甲野二郎(以下「原告二郎」という。)は、花子の次男であり、各二分の一宛花子が本件事故により被つた損害を相続した。
4 損害の填補
原告らは、自賠責保険より、三〇〇〇万円の支払いを受けたので、それぞれその二分の一に相当する一五〇〇万円宛自己の損害賠償債権の支払いに充てた。
二 争点
1 事故態様
被告らの主張
目撃者の乙山春子は、花子は交差点で信号待ちをしていたが、青に変わつて二、三秒してから渡り始め、下向きの状態で車道、横断歩道へと渡り始めたと供述しており、花子は左、右折車の動静について注意せずに横断したものであるから、一割の過失相殺をすべきである。
原告らの主張
自動車は、横断歩道により横断しようとする者のないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止できるような速度で横断し、あるいは横断しようとする者がある時には一時停止義務があり(道交法三八条一項、二項)、花子は、青信号に従つて横断歩道を横断していたもので、非難されるべき過失はなく、過失相殺すべき事案ではない。
2 損害
原告らの主張
(1) 花子は、株式会社甲田(以下「甲田」という。)代表取締役及び株式会社甲原(以下「甲原」という。)取締役として平成二年に合計二六九七万四〇〇〇円の給与収入を得ていたところ、甲田と甲原は、株式配当を行つており、会社資産と個人財産については明確に分離されており、花子の労働の対価は、収入全額とみるべきである。
花子死亡後の原告らの報酬の増額は、原告一郎は甲田の社長となつたため実質的にも職務内容が加重され、それに応じて報酬も増加したものであり、原告二郎は甲原の社長となつたため職務内容が加重され、それに応じて報酬も増加したものである。
そして花子は、死亡当時満六七才であつて、平均余命である一八年間の二分の一にあたる九年間は代表取締役として稼働できたとみられ、中間利息控除はライプニッツ方式により、生活費控除率は三〇パーセントが相当である。逸失利益は、次のとおり一億三四二〇万八〇五八円となる。
二六九七万四〇〇〇円×(一-〇・三)×七・一〇七八=一億三四二〇万八〇五八円
(2) 税金の控除について
税法上損害賠償金が非課税所得とされているのは、社会政策的見地等専ら被害者側に関する配慮から出た立法政策上の帰結にすぎず、その結果として、国が被害者から税金を取らないことを理由に加害者がその分の損害賠償義務の負担を免れることの根拠とされるべきではなく、税金を控除すべきであるとの被告らの主張は失当である(最判昭和四五年七月二四日民集二四・七・一一七七)。
被告らの主張
(1) 甲田と甲原は、同族会社であり、甲田の発行済株式九〇万株の二六パーセント程を花子が所有し、その外の主な株主は専務取締役の丙川松夫(以下「丙川専務」という。)と監査役の丁原竹夫であり、右三人の持株数は、発行済株式の約半分である。
花子の役員報酬には、労働の対価部分の他に利益配当部分が含まれていると考えられること、花子死亡後、原告らの役員報酬が飛躍的に上昇しており、甲田の四八期の花子の報酬二二三〇万円、原告一郎の報酬二一一四万八〇〇〇円合計四三四四万八〇〇〇円、甲原の四期の花子の報酬五二六万円、原告一郎四九二万円、原告二郎一〇八万円合計一一二六万円総合計五四七〇万八〇〇〇円であつたのが、事故後の甲田の四九期の原告一郎の役員報酬が三五五三万八〇〇〇円、甲原の五期の原告一郎の役員報酬が四九六万円、原告二郎の役員報酬四八〇万円で総合計四五二九万八〇〇〇円で、九四一万円の差しかないので、これを花子の年収とみて逸失利益を算定すべきである。
(2) 花子は昭和三八年七月に甲田代表取締役社長に就任し、死亡まで既に二八年間その職にあつたものであり、長男の原告一郎は、平成元年一一月甲田代表取締役副社長に就任し、後継者となることが予定されていた。総務庁統計局による就業構造基本調査によれば、六五才以上の者の就業率は昭和四三年には三三・六パーセントであつたのが、昭和六二年には二五・二パーセントと低下していること等考慮すると、稼働期間は、七〇才に達するまで、又は四年間に限られる。
(3) 女子の生活費控除率が三〇パーセントから四〇パーセントとされているのは、女子の賃金額が低いため、逸失利益額に大きな男女格差が生ずるので、その調整弁として生活費控除率を低く抑えているためであり、本件ではその必要はないので、五〇パーセントとすべきである。
(4) 花子は、高額所得者であり、損害賠償額の算定に当たつては、所得税、住民税等を控除すべきである。
3 したがつて本件の争点は、過失相殺と逸失利益を中心とする損害額の算定である。
第三 争点に対する判断
一 事故態様
前記争いのない事実に甲第一一ないし第一六号証、乙第一ないし第一二号証に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 被告日通は、現金輸送車で現金等を輸送する場合には、運転手の他警備員二名を同乗させ、交差点を直進したり右左折する際は、助手席に同乗している警備員も安全確認をし、「右よし」等の呼称をするよう指導していた。
2 事故現場は、別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)記載のとおり南北に走る裏通りと東西に走る新宿通りとが交差する信号機の設置されている交差点である。被告川上は、総合警備保障株式会社の警備員の高橋直樹を助手席に、山田昌寛を後部席に同乗させ、被告車を運転し麹町警察署西側脇の裏通りを南進しようとしていたが、赤信号のため<1>で停止し、青信号になつてから発進し、事故現場前交差点を直進予定で進行したが、<2>地点で交差点前方でバックしている軽四輪車が見えたので、<3>点で急に右折しようとして<4>点でA点を見て「右よし」と告げたが、高橋は何も言わなかつた。しかし、安全を確認したものと軽信し、自らは安全確認をしないまま時速約一〇キロから加速し、約二五キロで進行し、<5>点で同交差点の横断歩道を青信号に従い、南から北に向かつて横断歩行中の花子を<ア>点に発見し、危険を感じて急ブレーキをかけたが及ばす、<×>点で花子に被告車右前部を衝突させた。
右認定事実によれば、本件事故は被告川上が、右折する際、高橋が安全確認をしたものと軽信し、自らは右折方向出口の横断歩道上の安全確認を行わないまま進行したため生じたものと認められる。被告らは、花子は、下向きの状態で横断したので過失相殺すべきであると主張するが、歩行者は、青信号の場合は、信号に従い、横断歩道を横断することが許されているもので、過失は認められない。
二 逸失利益 六九〇二万一二八六円(請求額一億三四〇二万八〇五八円)
甲第三号証、第六ないし第八号証、第九号証の一ないし一五、第一〇号証、第一七号証の一ないし四、第一八、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一ないし四、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一ないし三、第二六、第二七号証、証人丙川松夫の証言、原告甲野一郎本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 花子は、本件事故当時満六七歳(大正一三年四月五日生)の健康な女子であり、建材の販売業を営む甲田代表取締役として平成二年一月から三月まで月額一一二万三〇〇〇円、四月から一二月まで一一八万五〇〇〇円、賞与七七〇万円合計二一七三万四〇〇〇円を得ており、また甲原代表取締役として平成二年一月から一二月まで月額三二万円、賞与一四〇万円合計五二四万円総合計二六九七万四〇〇〇円を得ていた。
2 甲田は、家具材の販売を目的としてきた甲野商店が、昭和二二年九月花子の夫甲野太郎によつて、合板・木材並びに建築機材等の販売等を目的として甲山株式会社として設立されが、右太郎が昭和三八年七月交通事故により急逝したため、花子が代表取締役に就任し、昭和四九年一二月甲田に社名変更して現在に至つた。本件事故当時の甲田の代表取締役は花子、原告一郎であつて、役員は丙川専務、常務取締役戊田梅夫、乙田春夫、取締役丙田夏夫、監査約丁原竹夫であり、甲田は資本金四五〇〇万円、従業員数九八名、販売先約一〇〇〇店、年間売上一六〇億円前後、本社、水戸支店の他関東一円に五か所の営業所を有し、住宅設備機器、新建材、合板等の総合卸販売を営んでいる会社である。
甲田の発行済株式九〇万株のうち花子が二五万一七五〇株、原告一郎は七万二二〇〇株、原告二郎が四万六七〇〇株所有し、その外の主な株主は、花子の義弟の丙川専務と甥の監査役の丁原竹夫であり、甲田は同族会社である。
3 花子の子は、長男の原告一郎(昭和二七年七月二四日生)と次男の原告二郎(昭和三一年八月六日生)であるが、原告一郎は、昭和五一年三月戊原大学卒業後修行のため戊川株式会社に入社し、約三年間余り勤めて昭和五四年七月甲田に就職し、昭和五六年一月取締役営業企画部長、平成元年一一月代表取締役副社長に就任し、本件事故後代表取締役社長に昇進し、平成二年一一月三〇日甲原の代表取締役に就任している。
また原告二郎は、平成二年一一月三〇日甲原の取締役に就任し、平成三年四月甲田に入社し、経理部門で働き、平成四年一月甲原の代表取締役に就任している。
花子は、昭和三八年七月太郎急逝まで主婦として子供らの養育に当たつていて、甲田の仕事を一切していなかつたが、代表取締役社長となり、丙川専務らから仕事の説明を聞いたり、同人の案内で得意先回りをしたりして仕事を覚えていつた。そして本件事故当時は月曜日から金曜日まで午前九時から午後六時まで出社し、丁田という女性従業員とともに各営業所からの売掛金の内容及び入金状況のチェックといつた債権管理業務、各営業所の買掛金の内容のチェックとこれに対する支払方法の選択、手形・小切手の振出の指示及びこれに関連しての銀行口座の管理、会社従業員の給料や源泉徴収のチェック、これらの資料を元に決算書の作成の準備をする等丙川専務とともに会社の経理部門を統括する仕事をしていた。また会社代表者として原告一郎とともに店長会議、役員会議に出席し、得意先回りや接待、年二回の展示会開催等の営業活動も行つていた。
花子は、代表取締役社長として経理部門を統括し、原告一郎は会社内でも得意先の間でも六七才の母親の後継者として認められており、代表取締役副社長として主として対外的な活動を担当し、両名で甲田の経営を行つていた。
4 甲原は、昭和六二年一〇月二〇日甲田が甲田第二ビルを建てた際甲田の不動産を管理するため設立された資本金五〇〇万円の株式会社であり、発行済株式一〇〇株のうち花子と原告一郎がそれぞれ一四株、原告二郎が五株所有していた。本件事故当時の代表取締役は花子、原告一郎であり、役員は取締役甲川秋夫、戊田梅夫、乙田春夫、原告二郎、監査役丁原竹夫である。甲原の従業員は甲田の嘱託をしている乙川冬子一人で、甲原の収入は、甲田ビルからの賃料収入であつて、甲原は甲田の一室に机を置いているだけの会社である。
甲田の四七期(平成元年九月二一日から平成二年九月二〇日まで)は、一株当たり六円、総額五四〇万円の株式配当を実施したので、花子は一五一万〇五〇〇円、原告一郎は四三万三二〇〇円、原告二郎は二八万〇二〇〇円の株式配当を受けている。
甲原の三期(平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日まで)は、一株当たり五〇〇〇円、総額五〇万円の株式配当を実施したので、花子、原告一郎はそれぞれ七万円、原告二郎は二万五〇〇〇円の株式配当を受けている。
5 原告一郎は、花子の後継者として甲田の代表取締役社長となり、花子の退職慰労金として一億円が支出され、四八期(平成二年一〇月一日から平成三年九月二〇日まで)の売上高が約一六二億六九〇〇万円、経常利益が約一億三九〇〇万円であつたが、バブルの崩壊のため建材の売値が下がつたため等から、四九期(平成三年九月二一日から平成四年九月二〇日まで)の売上高が約一五六億三二〇〇万円と減少し、業績が悪化しているのに原告一郎の役員報酬が、平成四年一月月額一三四万六〇〇〇円から二五〇万円に増額され、四八期の役員報酬が二一一四万八〇〇〇円であつたのが、四九期には三五五三万八〇〇〇円と飛躍的に増額された。
甲原においては原告二郎の役員報酬が四期(平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日まで)一〇八万円であつたが、平成四年一月取締役から代表取締役に就任すると同時に月額一〇万円から五〇万円に増額され、五期の役員報酬は四八〇万円に飛躍的に増額されている。
6 花子、原告一郎、原告二郎の報酬の合計と甲野花子死亡後の原告らの報酬の合計との差は次のとおり九四一万円である。甲田の四八期の花子の報酬二二三〇万円、原告一郎の報酬二一一四万八〇〇〇円合計四三四四万八〇〇〇円、甲原の四期の花子の報酬四九二万円、原告一郎の報酬五二六万円、原告二郎の報酬一〇八万円合計一一二六万円、総合計五四七〇万八〇〇〇円であつたのが、事故後の甲田の四九期の原告一郎の役員報酬が三五五三万八〇〇〇円、甲原の五期の原告一郎の役員報酬が四九六万円、原告二郎の役員報酬四八〇万円で総合計四五二九万八〇〇〇円で、九四一万円の差しか認められない。
三 以上甲田において花子は、代表取締役社長として経理部門を統括し、副社長の原告一郎とともに営業活動も行つていたこと、役員報酬額、後継者の原告一郎の役員報酬が業績は悪化しているのに飛躍的に増額されていること等総合すれば、株式配当がされていることを考慮しても甲野花子の役員報酬には利益配当部分が含まれているものとみられ、同人の労働の対価部分はその六割とみるのが相当である。
甲原については花子の死亡後原告二郎が役員に就任し、役員報酬が飛躍的に増額されているが、仕事らしい仕事がなかつたこと、甲田の一部門を別会社化したものであり、文字通り甲田の一部門と認められるので、甲田について職務を行つていれば甲原についても職務を行つていたものと評価できることからすれば、労働の対価部分は甲田と同じく、その六割とみるのが相当である。
原告らは原告一郎は甲田の社長、原告二郎は甲原の社長となつたためいずれも実質的には職務内容が加重され、それに応じて報酬も増加したものであると主張しているが、原告一郎については花子が以前担当していた経理関係は担当しなくなつた上、業績悪化の下で報酬が飛躍的に増額されており、増額部分には職務内容が副社長から社長となつたことに応じて増額された部分だけでなく、花子の役員報酬中にあつた利益配当部分を引き継いだ部分とがあるものと認められ、原告らの主張は採用できない。また甲原については、仕事らしい仕事はなく、原告らの主張は採用できない。
被告らは、労働者一般の就業率等から稼働期間を七〇才、または四年間に限定すべきであると主張するが、右統計を花子のような会社役員にあてはめることは適切ではないし、花子が代表取締役を交代するとか、仕事から引退する話が出ていたとの証拠は皆無であつて採用できない。また税金を控除すべきであると主張するが、不法行為により死亡した被害者の得べかりし利益の喪失によつて被つた損害額を算定するに当たつては被害者の収入に対して課せられるべき所得税その他の税額を控除するのは相当でないと解される(最判昭和四五年七月二四日民集二四巻七号一一七七頁)。
右事実によれば、花子は本件事故にあわなければ、九年間にわたり稼働可能であり、右稼働可能の期間中二六九七万四〇〇〇円の六割を下らない年収を得ることができると認められる。花子はその地位に相応しい社会生活を営むため多くの支出を余儀無くされること等考慮すると、全期間について生活費として収入の四割を必要とし、年五分の割合による中間利息の控除はライプニッツ方式によるのが相当であり、以上を基礎として、本件事故当時の現価を算出すると六三二六万九五一三円(円未満切捨以下同じ。)となる。
(計算式)
二六九七万四〇〇〇円×〇・六×(一-〇・四)×七・一〇七八=六九〇二万一二八六円
四 慰謝料
各九〇〇万円(請求額各一二〇〇万円)
本件事故の態様、花子の年齢、職業、その他本件において認められる諸般の事情を斟酌すると花子の死亡により原告各自が被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては、九〇〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。
五 葬式費用 一二〇万円(請求額二〇〇万円)
弁論の全趣旨によると、原告一郎が花子の葬式費用を負担したことが認められるが、本件と相当因果関係のある葬式費用としては、金一二〇万円をもつて相当と認める。
六 相続及び損害の填補
花子の損害は合計六九〇二万一二八六円となり、原告らは二分の一宛相続したので三四五一万〇六四三円となり、原告ら固有の損害(原告一郎につき一〇二〇万円、原告二郎につき九〇〇万円)を加えると、原告一郎の損害は四四七一万〇六四三円、原告二郎の損害は四三五一万〇六四三円となるところ、原告らはそれぞれ一五〇〇万円の支払いを受けているので、残額は原告一郎につき二九七一万〇六四三円、原告二郎につき二八五一万〇六四三円となる。
七 弁護士費用 各二九〇万円(請求額各五〇〇万円)
本件訴訟の経緯に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、原告らにつきいずれも二九〇万円と認めるのが相当である。
(裁判官 大工 強)